【経済の話】“現代喫茶店事情”…フルサービス店が生き残るための方策は

“現代喫茶店事情”…フルサービス店が生き残るための方策は

産経新聞 3月16日(日)20時10分配信

“現代喫茶店事情”…フルサービス店が生き残るための方策は

(写真:産経新聞)

 関西でおなじみの喫茶店「珈琲(コーヒー)の青山」が2月末で全11店舗を閉店し、喫茶店事業から撤退した。大手コーヒーチェーンの進出や安価なコンビニエンスストアの入れ立てコーヒーに押され、業績が悪化したのが大きな原因だ。価格やサービスが多様化し、「勝ち組」と「負け組」がくっきりと分かれ始めた喫茶店市場。昔ながらの喫茶店は苦境に立たされている。

 ■待ち合わせに重宝

 「珈琲の青山」は、青山珈琲(兵庫県尼崎市)が兵庫、大阪、奈良、広島の各府県で計11店を運営していた。

 同社は昭和23年に創業。店は大阪・梅田や神戸・三宮の繁華街などに立地し、ガラス張りの外観や豪華なインテリアなど高級感のある落ち着いた雰囲気が特徴で、待ち合わせなどに重宝されてきた。コーヒーも売り物のブルーマウンテンが1杯550円と、1杯200〜300円台で提供するチェーン店などより高めだった。

 帝国データバンク神戸支店によると、ピーク時は36店舗まで拡大し、平成10年には約41億円の売り上げがあったが、24年は約5億円に落ち込んでいた。

 同社は喫茶店事業からの撤退について「創業者である社長が高齢になり、自分が生きているうちに店を閉めたいとの意向があった。業績面で他店に押され低迷し、4月から消費税率が上がることもあり、このタイミングで撤退を決めた。今後は不動産業に絞る」と説明。大人向けの高級志向が、安価なコーヒー店が浸透した今の時代に合わなくなったとの見方もある。

 ■減り続ける喫茶店

 外食産業総合調査研究センターの推計では、平成24年の喫茶店の市場規模は1兆197億円。ピークだった昭和57年(1兆7396億円)の約6割に縮小。喫茶店の事業所数も総務省の統計によると、自家焙煎などの「珈琲専門店」ブームだった昭和56年の15万4630店をピークに減少し続け、24年には4万9298店と3分の1以下にまで落ち込んでいる。

 背景について、兵庫県喫茶飲食生活衛生同業組合の理事長で、神戸市垂水区で喫茶店「リア珈琲」を経営する林靖二さん(61)は「若者はファッション性の高い『スターバックス』や安いコンビニのコーヒーに流れる。ビジネスマンも『ドトールコーヒー』などセルフサービスの店に行く。個人経営店には後継者が不足しており、時代の変化に対応できていなかった」とみる。

 ■禁煙や無線LANは当たり前

 個人経営店が減少する一方、大手チェーン店は急速に店舗数を伸ばしている。

 業界最大手のスターバックスコーヒージャパン(東京都品川区)は、エスプレッソ主体のメニューと独自のブランドイメージで売り出しに成功。店内の全面禁煙も女性層を中心に支持を集め、日本でも人気が定着し、昨年9月に国内の店舗数は1千店を突破した。

 客のニーズを受け止める企業努力も大切だ。会社のオフィスではなく、喫茶店などでノートパソコンやタブレット端末を使って仕事をする「ノマド遊牧民)ワーカー」と呼ばれる層が若い世代を中心に増えており、こうした客を呼び込もうと、インターネットに接続できる公衆無線LANサービスの設置をアピールする店舗が目立ってきている。

 ■高級ソファでゆったり

 店員が客席まで注文を取りにきて、飲み物や料理を席まで運ぶフルサービス式の喫茶店でも、客のターゲットを絞った工夫で健闘しているケースはある。

 ビジネスマンや中高年層に人気がある店では、首都圏で85店舗を展開している「喫茶室ルノアール」が有名だ。高級ソファやいすを設置。客1人あたりのスペースを広めに取り、くつろげる空間を提供している。経営する銀座ルノアール(東京都中央区)は、26年3月期第3四半期(25年4〜12月)の連結決算で、売上高は同年前期に比べ3・7%増の50億8千万円。本業のもうけを示す営業利益は47・6%増の4億1600万円と好調だ。

 ■ボリューム満点の軽食

 出店数で急激な勢いをみせているのが、名古屋発祥の「コメダ珈琲店」だ。昭和43年の創業時は個人経営の喫茶店だったが、平成15年に関東地区に進出して以降、全国に店舗数を急速に伸ばし、今年3月時点で558店舗を数える。ログハウス調の店舗作りがシニア層や主婦層の支持を集めている。

 フランチャイズ展開するコメダ名古屋市東区)は「創業時からメニューは変わっていない」としているが、飲み物にすべてトーストとゆで卵が付く名古屋式の「モーニングサービス」や、ボリュームのある軽食メニューが中京圏外の人たちには新鮮に響いた。

 ■個人経営店の生きる道

 フルサービス式の店舗にも成功例はあることから、林さんは個人経営店の未来にも希望は持ち続けている。

 「地域の人が店に寄って関わり合える昔ながらの喫茶店を残していくことが大切。これから喫茶店をやりたい人が投資を少なく抑えて安定して経営できるように手助けしたい」と、喫茶店経営を志す人たちを支援するためにCRプランナー(カフェ・レストラン経営士)の資格講座を開催する。

 自身が経営する店で4月12日から計7回にわたって資金計画やマーケティング、コーヒーの全般知識から焙煎方法、調理実習やスタッフの教育、研修の方法までを講義して資格取得と開業に導く。

 個人経営店は客のニーズや時代の変化にどう対応していくのか。林さんの取り組みが注目される。


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