【経済の話】「極ゼロ」問題で発泡酒市場に異変、シェア争い再び激化へ

「極ゼロ」問題で発泡酒市場に異変、シェア争い再び激化へ

産経新聞 7月26日(土)21時25分配信

「極ゼロ」問題で発泡酒市場に異変、シェア争い再び激化へ

「極ゼロ」の再発売をアピールするサッポロビールの尾賀真城社長=15日、東京都渋谷区(写真:産経新聞)

 酒税の課税分類をめぐって起きたサッポロビールの「極ZERO(ゼロ)問題」をきっかけに、「発泡酒」市場に注目が集まっている。消費者が高い関心を示すプリン体と糖質をゼロにした極ゼロは、税率が最も低い低価格の「第3のビール」で売り出し、爆発的なヒットを記録。だが、国税当局の製法照会を受け、税率のより高い「発泡酒」として再発売を余儀なくされた。大麦を多く使えるなど製法に柔軟性のある発泡酒なら「糖質・プリン体ゼロ」のハードルは低い。ここに着目した他の大手ビールメーカー3社が、一斉に同様のコンセプトの発泡酒の発売を9月に計画しているのだ。右肩下がりを続けていた発泡酒市場が上向く可能性があり、税収増につながる動きを国税当局も注視している。

 「極ゼロが第3のビールから(発泡酒に)切り替えるのを受け、当社も発売を決めた」

 キリンビールの磯崎功典社長は、9月に発売する発泡酒「淡麗プラチナダブル」についてそう明かす。極ゼロと同様、糖質や痛風の原因とされるプリン体を含まないのが特徴だ。

 サントリー酒類アサヒビールも、それぞれ同じ特徴の発泡酒「おいしいZERO」、「スーパーゼロ」を9月2日に発売、サッポロの牙城切り崩しを狙う。

 糖質とプリン体をカットする製法は、消費者の健康志向に訴求する鍵として各社が開発に取り組んでいた。サッポロは、他社に先駆け糖質とプリン体を含まない第3のビールを実現。昨年6月発売から半年間で、約360万ケース(1ケースは大瓶20本換算)を売り上げるヒット商品となった。

 サッポロは先月20日、第3のビール発泡酒の酒税の差額分116億円を国に自主納付すると発表。2014年12月期に見込んでいた連結最終利益50億円が吹っ飛び、赤字転落が確実視されている。

 極ゼロの発泡酒への切り替えに伴い小売価格は1缶当たり20〜30円高くなった。当初、客離れを予想する向きもあったが、極ゼロの初回受注量は、7月の月間販売計画を4%上回る52万ケースと好調な滑り出しを見せている。

 「景気回復を背景に、価格よりも商品価値が重視されるようになってきた」。サッポロの尾賀真城社長が、15日の再発売会見で語った言葉が的中した格好だ。旧製品は5月生産分までで約290万ケースを販売しており、当初計画の年間550万ケースは十分に達成可能とみる。

 ただ、9月以降は競争が激しくなるのが必至で、後発組は風味による差別化を図る。キリンは発泡酒からプリン体のみを吸着除去する独自技術でビールに近い風味に仕上げ、アサヒは独自素材の「コメ乳酸発酵液」で飲みごたえを向上。サントリーは発売直前まで改良を続ける。

 迎え撃つサッポロは、テレビCMなどの宣伝を強化、極ゼロを6缶購入すれば買い物代金分の金券が当たるキャンペーンを展開するなど、顧客のつなぎ止めに懸命だ。

 発泡酒第3のビールの課税分類をめぐっては、税収を増やしたい国側と、高い税率を回避して販売価格を下げたいメーカー側がいたちごっこを繰り広げてきた。2003年に発泡酒の税率が上がってからは、より税率の低い第3のビールがシェア争いの主戦場となった。第3のビール市場は、13年にビール類全体の約37%を占めたほどだ。

 一方の発泡酒の販売量は右肩下がりを続け、13年の同シェアは14%弱まで落ち込んだが、今回の極ゼロ問題を契機に再び各社の新商品開発の焦点として浮上した。

 もっとも、メーカーにとって利幅が大きいのはビールであり、その点では、税率によって販売価格が異なる発泡酒第3のビールも変わらない。また小売店の陳列スペースは限られるため「4社の商品がそろっても、置いてもらえるのは2〜3銘柄だろう」(布施孝之・キリンビールマーケティング社長)というのが実情で、販路確保をめぐる安売り合戦に陥る可能性さえ否めない。大手証券アナリストは「ビール類の販売競争の構図が変化することで、一番喜ぶのは税収が増える国側だろう」と皮肉った。

 財務省はかねて、製法や原料によって複雑に分類されている酒税体系を簡素化し、税収の安定確保につなげたい方針を掲げてきた。国税当局からサッポロへの製法照会に始まった今回の極ゼロ問題は近い将来、酒税の簡素化をめぐる議論の導火線となる可能性もありうる。

 各社にとって、ビールの税率引き下げは永年の悲願だが、多くのユーザーを持つ発泡酒第3のビールが引き上げとなれば、立場は複雑だ。(山沢義徳)


http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140726-00000566-san-bus_all
※この記事の著作権は、ヤフー株式会社または配信元に帰属します


【おすすめサイト】
経済ニュースが満載!FX・金融・財テク情報発信基地