現象を自分の情報だけで解釈していないか？村上龍氏の忠告

かなり昔のエッセイになりますが。
村上龍氏の「アメリカン・ドリーム (講談社文庫)」という著作に、非常に興味深い視点がありました。

Q リチャード・ブローティガンの話って？
A 行けば必ずそこにブローティガンがいるっていうバーが六本木にある。ブローティガンは日本にいる時は必ず毎晩その店に来る。
　この話はそのバーのマダムに聞いたんだ。
　「ある日ね、ブローティガンが日本はすごいってしきりに言うのよ、どうして？って聞いたら、『カムバック・サーモン』っていう酒がある、そのネーミングがすごいっていうわけ、アメリカだろうがカナダだろうが、そんな素敵なネーミングはできないって感心するの、それでもってすごいのは、半年後に来てみると、その酒がすでにまったく酒屋から姿を消してたっていうのね、そのサイクルの早さはもう信じられないっていうのよ」
　わかるだろう？
Q キャンペーンテーマを酒の名前と混同したわけだ。
A そうなんだ、宝焼酎の「純」のコマーシャルで気持ちの悪い男がふんどし姿で、カムバック・サーモンっていうのがあったよね。キャンペーン期間中には「カムバック・サーモン」ってラベルに貼ってあったらしい。
　ブローティガンはそのことを中心にして、日本論を書くっていうからみんなでよした方がいいって忠告したらしいけどね。
Q その話とこのエッセイとどんな閏係があるんだ？
A だから同じような勘違いが私達の側にもあるんじゃないかと思ってさ。
Q どういうこと？
A つまり、人間の悪い癖だよ、現象を自分の情報だけで判断してしまうんだ。まあブローティガンの場合は「純」なんて日本語はわからないわけだし、カムバック．サーモンなんてラベルにあれば当然酒の名前だって思うだろうけどさ。
Q よくわからないな。
A あのね、現象の中に意味を探しちゃうんだよ。現象だけではなくてね、小説の中にも、絵の中にも、映画にも音楽にも演劇にも、意味を見つけようとするのが近代人なんだ。本当はそうではなかったんだけどね。快感とか代償とか刺激とか鎮静とかを目的に作られていて、意味なんかないのに、意味を読み取ろうとするんだ。
間違ってる。