【経済の話】公的年金の資産運用改革、秋口までの発表目指す=GPIF米沢委員長

公的年金の資産運用改革、秋口までの発表目指す=GPIF米沢委員長

ウォール・ストリート・ジャーナル 6月11日(水)12時37分配信

 【東京】日本の公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は今秋、株式と外国債の資産配分比率の引き上げを発表する公算が大きい。運用委員長を務める米沢康博氏(早稲田大学大学院教授)が10日、インタビューで明らかにした。ポートフォリオの組み替えで数百億ドル規模の資金が市場に流入し始める可能性がある。

 運用資産1兆2600億ドル(約129兆円)と世界最大の年金、GPIFで配分見直しが実施されれば、安倍晋三首相が掲げた目標の1つが達成されることになる。また、二十年前後にわたる日本経済の低迷期に投資家がおおむねリスクを回避したことを踏まえると、これが活性化への起爆剤となる可能性もある。

 米沢氏は「9月か10月ごろまでには作らなきゃいけないと私は個人的に思っている」とし、「わざわざゆっくりやる必要は全くない」と述べた。

 米沢氏は、日本株、外国債、外国株式への配分比率をそれぞれ5ポイント引き上げる見直し案を提示した。その目指すところは2つある。年金受給者の期待に添うべく資金確保のために運用収益を向上することと、成長過程にある国内企業に資金を向けることで国内のリスク志向を刺激することだ。

 この見解は経済成長を重視したアベノミクスと呼応するものだ。2012年末の就任以来、安倍首相は公的年金に対し、これまで長く採られてきた保守的な運用戦略を再考するよう強く進言してきた。

 しかし、退職後の安定的な年金給付に頼っている日本国民にとって、こうした見直しは不透明性の高まりにつながる可能性もある。日本国債を中心としたポートフォリオを運用するGPIFはここ数年、利回りが低いながらも比較的堅調な運用成績を上げてきた。その背景にはデフレ環境が債券市場にとって好材料になっていることもある。

 年金基金の元幹部である大妻女子大学短期大学部家政科の玉木伸介教授は「GPIFは資産市場における短期志向の介入手段として用いるべきではない。GPIFは1円に至るまですべて年金資金だ」と述べた。

 配分比率の変更は物価上昇が実現するとの見方の表れにほかならない。安倍首相と日本銀行はいずれもデフレからインフレへの転換を実現させると公言してきた。

 米沢氏は「今まで日本株に投資してもあまりいい経験はなかったけど、そこにはアベノミクスはなかった」とし、「でも日本の企業が最近変わってきて、よくなりつつあるなと感じる」と述べた。米沢氏は、日本企業の株主資本利益率ROE)は上昇しており、より確固とした企業統治に向かっていると述べた。

 GPIFはこれまで、日本国債の配分比率が6割という保守的な運用に徹してきた。GPIFは東京に事業所を1つ持つのみで、従業員数は80人未満。運営予算も微々たるものだ。一方、運用資産7700億ドルで世界第2の年金基金となっているノルウェーの政府年金基金グローバル(GPFG)は、約370人のスタッフを抱えている。

 米沢氏は、運用委員8人のうち自身を含む3人が今週にもポートフォリオの見直しに取り組むと述べた。

 GPIFにおける配分比率の変更はすでに東京の株式市場で注目されており、投資家はその1ポイントの変更が100億ドルもの資金シフトにつながると認識している。日経平均は年初来ではマイナス圏にとどまっており、外国投資家は日本が低迷から脱する上で安倍首相が十分な対策を講じているか疑問を持っている。

 GPIFの重点変更は一部海外資産に押し上げ効果をもたらし得る一方、その資金は分散化されるために影響は限られる見込み。

 現在の運用資産に占める国内株、外国株の目標配分比率はそれぞれ12%前後。米沢氏が示す基本シナリオに基づくとこれらの数値はそれぞれ17%へと上昇し、外国債券の比率も11%から16%に上昇する。一方、国内債の比率は40%に低下するほか、ポートフォリオにはインフラなど新たな代替投資クラスが加わる公算が大きい。

 こうした数値は委員会での協議によって変化する可能性もある、と米沢氏は述べた。また委員会では実際の見直しの実施時を今秋の発表前にするか後にするかも協議するという。

 ポートフォリオ見直し以外にも、GPIFはここ数カ月で重大な変化を経ている。

 2月には、GPIFは初の共同インフラ投資プログラムを立ち上げると発表した。これに伴い、GPIFはインフラやプライベート・エクイティ(未公開株)、不動産など非上場資産を専門とする4人からなる新部門を立ち上げた、と事情に詳しい関係者は述べた。

 GPIFはこれまでブラックロックなど大手資産運用会社を起用してきたが、4月に発表した日本株に係る運用委託リストには、比較的知名度の低い企業も含まれた。

 資産運用業界ではGPIFが委託会社を一段と分散化し続けるかに注目している一方、その委託手数料率の低さから割に合わないとの声も聞かれる。2013年3月期にGPIFが外部運用会社に支払った手数料は2億ドルを若干超えたが、運用資産に占める比率は約0.02%にすぎない。

By ELEANOR WARNOCK


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