【経済の話】【オピニオン】南アを超えたナイジェリア―資源だけでない成長の原動力

【オピニオン】南アを超えたナイジェリア―資源だけでない成長の原動力

ウォール・ストリート・ジャーナル 4月20日(日)14時37分配信

 ナイジェリアの首都アブジャで14日朝、爆弾テロが発生、71人が死亡した。国民の関心は一気に事件に向かったが、事件が起きるまでは経済の急成長が話題になっていた。

 今月6日、同国は昨年の国内総生産GDP)が前年の2倍近い5100億ドル(52兆2100億円)となったと発表した。世界で最も高い経済成長率を記録した上、規模でも南アフリカ(3840億ドル)を抜いてアフリカ最大の経済大国となった。世界ランキングでは、12カ国を追い抜いて主要20カ国・地域(G20)のすぐ下の24位につけた。

 ナイジェリア経済に奇跡が起きたわけではない。いわば統計の魔法によって生じた事態である。ほとんどの先進国は消費動向の変化を反映するため、ほぼ5年ごとにGDPの基準を改定しているが、ナイジェリアでは1990年以降、この改定が行われていなかった。つまり、1億2800万人もの携帯電話利用者がいるにもかかわらず、GDPにはこれまで移動体通信の急増も反映されておらず、著しい発展を遂げ被用者数が2番目の娯楽部門も含まれていなかった。

 破たん国家の集まりで、外部による救済が必要――。サハラ以南のアフリカについて、西側の支援団体や政治家、ジャーナリストは、あまりにも長い間、ご都合主義的に、こんなイメージをまき散らしてきた。紛争や貧困、病気というイメージばかりが強調されたため、観光客は恐れをなして近づかず、企業も本腰を入れて進出しようとしなかった。しかし、実像は異なっている。民主主義が広がり、経済は急成長している。毎晩、空腹を抱えながら眠りにつく人より太りすぎの人のほうが多いのがサハラ以南のアフリカの現状なのである。

 アフリカ経済の4分の1を占めるナイジェリアはまさに象徴的な存在である。政治の

失敗が続き、国家が十分に機能してこなかったためだろう、ナイジェリアには起業家

精神があふれている。GDP急増の原動力はサービス部門と存在感を増しつつある製造

業だった。アフリカ一の富豪アリコ・ダンゴテ氏はナイジェリアでセメント企業と食

品企業を経営している。これまで経済を支えてきた石油・ガス産業は今や、GDPの14%

を占めるにすぎない。

By IAN BIRRELL

 ナイジェリアには今でも、宗派間の対立の傷跡が残っている。腐敗もあれば貧困も

ある。同国は世界24位の経済規模を誇るが、国民1人当たりのGDPでは100位にも入っ

ていない。基準改定後のGDPによると、同国の税収は悩ましいほど低い。しかし、大

富豪の出現でナイジェリアはアフリカ最大のプライベートジェット市場に成長した。

新興中産階級の購買力に支えられて、シャンパンとコニャックの消費が急増している

。「ノリウッド」として知られるナイジェリアの映画産業は年間1000本もの映画を製

作、米国、インドに次ぐ世界3位の興行収入を挙げている。

 ゴールドマン・サックスはナイジェリアの経済規模が2050年までにカナダやイタリアを抜き、ドイツに迫ると予想している。世界の経済成長率ランキングのトップ10のうち6カ国はアフリカが占めている。世界で人口が最も若いのもアフリカだ。ナイジェリアはそのアフリカ大陸にある54カ国のうちのたった1カ国にすぎない。エチオピア、ガーナ、ケニアモザンビークタンザニアもナイジェリアと同じように急速に発展している。アフリカの中産階級人口は既にインドを超えていて、消費支出の原動力になっている。世間の認識とは異なり、アフリカで急成長している国のほとんどは天然資源に依存していない。

 抜け目のない多国籍企業はアフリカへの参入を急速に進めている。米ゼネラル・エレクトリックは今年、今後数年間でサハラ以南のアフリカでの売り上げを倍増させると発表した。同社はこの地域のガスタービンの販売台数が米国の販売台数を超えるのも時間の問題とみる。飲料メーカーやファストフード企業、ホテルチェーンとの提携も予定している。

 グラクソ・スミスクラインは今後5年間で2億1600万ドルを投じ、数カ所に新たな工場を建設する計画を発表したばかりだ。経済発展に伴って慢性疾患が増え、治療の需要が増加するアフリカに製薬会社が関心を強めているのだ。世界銀行によると、アフリカでは乳幼児死亡率が低下し、伝染性疾患は抑制されているが、今後15年間でがんや心臓病など非伝染性疾患が死因の約半数を占めるようになるという。

 アフリカの人々は自由に物を買う力を手に入れたが、公共サービスの質は悪く、年金制度も整備されていない。ここでも、資本主義と消費主義が変化を促している。英保険大手プルーデンシャル最高経営責任者(CEO)はアフリカ生まれだ)は1日2ドル50セント未満で暮らす人々に保険を販売するガーナの企業グループを買収した。ケニアやナイジェリアでは、貧しい家庭でも子どもを二流の公立学校に行かせるより、個人教授を選ぶことが多い。アフリカでもコンピューターマニアがインフラ未整備や不正医薬品、銀行サービスの不足といった問題を技術的に回避する方法を考え出している。ケニアの携帯電話を使った金融サービスシステムM-Pesa(エムペサ)のような最先端の技術もある。

 アーンスト&ヤングなどの調査によると、アフリカに進出した投資家は非常に前向きだが、未進出の企業は悲観的な見方にとらわれている。筆者は最近、プレミアリーグに所属する英国のサッカーチームの最高経営責任者に西アフリカでツアーを行って、現地のサッカー人気を生かしたらどうかと勧めると、CEOは軍隊に守ってもらわなければならないと言って笑った。残念ながら、このCEOのように近視眼的な人は非常に多い。

 深刻な問題もあるが、それは世界のどの地域でも同じである。アフリカの多くの地域は中国に匹敵する急上昇期を迎えようとしている。ナイジェリアのGDPが急増した理由が統計上のねじれであったとしても、アフリカ大陸の急激な経済成長とすさまじい変化は本物である。これを見逃せば、のちのち、時代を見る目がなかったと後悔することになるだろう。

(イアン・バーレル氏は英国の新聞「デイリー・メール」と「メール・オン・サンデー」の寄稿編集者。英国のデービッド・キャメロン首相の元スピーチライター)

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